経済格差や不平等が、ここ数年話題になっていました。たしかに、格差が広がっているところもあるのでしょう。ピケティの『21世紀の資本』などが話題になっていましたね。富める者と貧しい者の経済格差をどうするか、たしかに気になるところではあります。
ただ、日本にいると、今の貧富の格差よりも、将来のことや、世代間での格差のほうを感じやすい、見つけやすいところはあるようにも思えます。それは、少子高齢化社会に入っている日本の状況を見ることが多いからなのかもしれません。
というようなことが気になっていたので、『世代間格差: 人口減少社会を問いなおす』を読んでみました。
年金破綻、かさむ高齢者医療費、就職できない若者。少子高齢化の進む今、生まれた年によって受益と負担の格差が出てしまう「世代間格差」は、日本の現状と先行きを考えるうえでは避けて通れない問題である。なぜ世代間格差が生まれてしまうのか。格差はいかに解消すべきか。本書は経済学的見地から世代間格差を考察し、実行可能な処方箋を提示する。社会保障・日本型雇用・少子化対策などの問題点を多角的に検証し、新たな経済社会システムの構想を鮮やかに描き出す。
世代間格差がどうして生まれたのか、そして、どうやって世代間格差を縮小するのかということが書かれています。
目次
第1章 世代間格差を考える
第2章 疲弊した社会保障制度
第3章 変貌する労働市場・雇用システム
第4章 立ち遅れる人生前半への社会政策
第5章 いかに世代間格差を縮小するか
第6章 新たな経済社会システムを目指して
世代間格差の試算
「内閣府の試算では、2003年度に60歳以上の世代はおよそ4900万円の受益超過となるのに対し、20歳世代の世代は約1700万円の負担超となっている。さらに注目すべきは、将来世代の負担超過額である。将来世代は、2003年時点の20歳未満の世代と、さらにこれから生まれてくる世代を指しているが、彼らは生涯でおよそ4600万円の負担超過となる。
さらに、日本経済新聞の試算では、60歳以上の生涯における受取超過額は約4000万円に減少する一方、将来世代の負担超過はおよそ8300万円に拡大し、その差は1億2000万円を超える。」(p.022-023)
まず試算です。
内閣府の試算は、年金だけではなくて、政府に支払う項目と政府から受け取る項目の差額として計算されているそうです。
試算なので、これが必ずしも正しいということはないというか、未来のことはわからないということもあるでしょう。
ただ、いずれにしても、今の制度のままだとしたら、高齢者が増えて、若者が減るわけですから、将来世代は負担が大きくなって、受給は少なくなるというのはありますね。
制度疲労
「本書の中でいくたびか強調したように、世代間格差拡大の本質的な問題は、高齢者と若者の間の損得といったことではなく、われわれの経済社会の制度・システムが制度疲労を起こしており、持続可能性が失われつつあるということにある。」(p.263)
これは、本書の「おわりに」に書かれていることです。
世代間の格差が拡大する、若者の負担が大きくなると、社会保障制度などが維持できなくなる。ここが問題ということです。個人レベルでは、損得というのはあると思います。試算などを見れば、今後、若者は今の老人よりも負担が大きくなって、損になる可能性は高いのでしょう。しかし、ただ単に損得ということではなくて、システム・制度が維持できなくなることの問題が本質的ということです。
そういう意味で考えると、世代間格差という言葉が、あまり本書で言っていることを考える際には、よい言葉とは言えないのかもしれません。
良いネーミングとは思いませんが、「社会保障制度・システム破綻問題」とかのほうが良いかもしれませんね。
経済格差の問題?
おそらく、経済格差の問題は、格差の大小よりも、貧困の問題だったりするのではないでしょうか。そして、少子高齢化や世代間格差も、社会制度が不安定になることが問題なのではないでしょうか。
ものすごく大雑把に言ってしまえば、「貧しい人」がいなくて、制度が長期間(50年程度?)維持できる見通しがあるのであれば、あまり格差は気にならない。もちろん、気になる人もいるでしょう。『21世紀の不平等』でも、累進課税の累進性を高めることが提案されていました。そういうのもありかもれません。
しかし、そこまで大きな問題なのかという話にもなりますよね。仮に格差があっても、生活費が維持できて、安心して生活ができるようになっていて、将来もそれなりの期間、生活できそうなら良さそうですよね。
格差より将来への不安
『世代間格差: 人口減少社会を問いなおす』
格差よりも「将来への不安」というのが、大きいのかもしれません。また、現在、貧しいとしたら、「貧困」ですね。
格差をどうするかよりも、貧困をどうするのか。そして、将来も持続可能な、安心して暮らせる社会システムをどうするのか。そういうことのほうが、わたし個人としては問題なのではないかと思いました。
最近、格差のことが気になって、いくつか本を読んでみて、なんとなく経済格差が話題になっていたことに違和感を感じていました。 その違和感のもとは、こういうところにあったのだろうと思います。
こういう文脈の中で、格差を語るのであれば、意義は大きいのかもしれませんね。
そういう意味で、『世代間格差』は、タイトルこそ、格差となっていますが、社会システムなどをどうするかという話もあるので、興味深く読むことができました。